人類の発展は科学の存在なくして語れません。
しかし、科学は世間一般では万能のように思われがちですが、今の科学には抱えている課題があります。
現在の世界でGAFAMが資本主義経済の中心にいるように、科学でも同様に特定の主体に権力が集中してしまっています。
そんな状況を打破すべく、科学界に登場したのが「DeSci(分散型科学)」です。
DeSciはブロックチェーンを始めとするWeb3のテクノロジーを利用して、科学界の課題を解決しようという動きのなかで誕生しました。
DeSci自体は新しい概念であるため、定義がまだはっきりと決まっているわけではありませんが、科学を変えうるものとして、注目を集めています。
今回はDeSciと何か、DeSciが科学をどう変えていくのかを詳しく解説します。
DeSciって何?

DeSciとは、「Decentralized」と「Science」を組み合わせた言葉で、スマートコントラクトやトークンなど、ブロックチェーンのツールを使うことにより、分散型のガバナンスを基本として民主的でオープンな科学を実現しようとする動きのことです。
ただし、DeSciは具体的な定義がはっきりしているわけではないため、抽象度が高いことは否めません。
簡単にまとめると、DeSciはブロックチェーンのテクノロジーを使うことによって、現在の科学界が抱えている課題「仲介者に搾取されている査読者の報酬」「科学者の資金調達方法」「出版社への権力集中」を解決できる手段として期待されています。
これらの科学界の課題を具体的に説明しつつ、DeSciはそれをどう変えていくのか説明します。
DeSciは資金調達を変える
研究開発はものすごく多くの必要がかかるため、研究者が研究成果が出せるかどうかは研究資金を得られるかどうかにかかっているといっても過言ではありません。
そのため、研究者は研究そのものが最も大事なのにもかかわらず、国や企業などが配分する資金から研究資金を得るために、研究資金調達の書類作りに時間をとられているという現実があります。
しかも書類を出したとしても、資金を得られない可能性もあるのです。
これがDeSciになると、科学に特化したプラットフォームやプロトコルをつくることにより、トークン発行で資金調達できたり、NFTをマーケットプレイスに出品して得られた売上を資金にすることもできるのです。
つまりDeSciによって研究者はこれまでのやり方よりも高い確実性で資金を得られますし、非常に手間のかかる書類作成からも解放されます。
研究者は本来、研究に一番時間を割くべきであり、DeSciはその手助けをしてくれるのです。
DeSciは査読も変える
研究論文を読んで、内容に誤りがないか、掲載できる状態かどうかの判断、意見を出すことが査読です。
現在の科学界では、査読は基本、科学者自身が無償でおこないます。
たとえば田中さんの論文をもうひとりの研究者である鈴木さんに査読してもらう場合、田中さんは鈴木さんに対して報酬を支払っていません。
一方で、出版社は科学者どうしの査読の間に入ることがあるのですが、出版社は仲介手数料をとって利益を得ています。
つまり、科学者の田中さんと鈴木さんに対する報酬がないにもかかわらず、仲介者にすぎない出版社は手数料という報酬を得ているのです。
この課題もDeSciによるブロックチェーンのスマートコントラクト機能が解決してくれます。
これまでの科学界で出版社が担っていた仲介者の役割を、スマートコントラクトのプログラムを間に組み込むことにより、論文を書いた人と査読者が直接やり取りするようにできるのです。
査読者の査読が終わった場合、スマートコントラクト機能が働くことにより、著者から査読者へ直接、トークンが報酬として支払われるようになります。
DeSciは科学をオープンにする
一昔前、科学の研究成果が見られる人は限定されていました。
また、研究成果を見て利用する場合、利用する側は相応の費用を支払うようになっていました。
それが近年、科学はオープンであるべきという議論になり、だれもが研究成果を見られる状態でなければおかしいという意見が強まったのです。
しかしここで問題となるのが、出版社が研究論文の公表に対して権力が強いことです。
研究論文を利用する側自体は費用を負担しなくてよくなったものの、その代わりとして、研究者が出版社に論文を掲載するためにお金を支払うようになってしまいました。
DeSciに期待されているのは、研究者の評価を異なる手法に変えることです。
科学者の活動を評価する、分散型による研究のコミュニティはすでにありますが、コミュニティで研究者の活動を評価して、価値が認められると研究者はNFTを得られます。
NFTの保有数で研究者がどれくらい多くの優れた研究成果を出しているかを測ることができます。
NFTはブロックチェーンに刻まれるため、検証可能なデジタル評価として残り続けるのです。
まとめ

ここまでDeSciが科学界の課題をどう解決していけるのか説明してきました。
科学界の最高峰「ノーベル賞」には日本人からも数多く選ばれています。
しかし、多くは日本以外の国の研究機関に所属しており、日本の科学が世界の先頭集団であるとはいえません。
現状を打ち破るためには、これまで抱えてきた科学の課題を解決して、科学界の構造そのものを変えていく必要があります。
科学者ならだれでも疑問に思っていたのにどうしようもなかった数多くの課題を、DeSciは解決してくれるのです。
DeSciはまだはっきりとした定義があるわけではないため、あいまいでわかりにくい面もありますが、最大限に活用すれば科学者は大きな恩恵を受けられることでしょう。
科学者が適切に評価され、得るべき報酬をきっちりもらい、必要な研究資金を十分得られるようになれば、間違いなく日本の科学は変わります。
研究者が実際に研究成果を得られるかどうかは、長い目で見ないとわかりません。
これまでの資金調達のやり方だと、研究と国・企業の思惑とで合致しないところもあったでしょうが、DeSciで資金を効率よく得られるようになれば、研究者の研究に対する取り組み方も変わります。
科学を変えるDeSciは今後も要注目です。