近年、世界中から注目されている新しいテクノロジー「メタバース」。
日本は世界から遅れているとはいえ、新聞やテレビでも取り上げられることが増えてきており、メタバースそのものへの理解はあいまいでも、メタバースというワードをよく聞くようになったと実感している人は多いことでしょう。
メタバースに時間もお金も大きく注いでいる企業が、Facebookを傘下に持つ「Meta」社です。
最高経営責任者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、メタバースがMeta社の将来を定義するものとして、メタバース構築に数百億ドルを投じると表明しています。
今回はメタバースとビジネスの関係について、詳しく解説します。
メタバースの市場価値
Metaverse Market Size, Share & Trends Report, 2030によると、2020年のメタバースの市場価値は「272億1000万ドル」でしたが、2022年から2030年にかけて39.1%の成長率で伸び「8245億3000万ドル」に達すると予測されています。
メタバースには多方向での活用が見込まれ、主に以下の3つでの活躍が期待されます。
・コミュニケーション
・ゲーム
・イベント
コミュニケーションの面では、ビジネス上のVR会議はもちろん人々の交流の面でも役立っていくでしょう。
メタバースゲームでは、The SandboxやDecentralandなどがリリースの準備を進めており、国内外の大手企業からの出資を集めています。
また、メタバースでイベントを開くことで、新たなマーケティングのスタイルが構築されていく可能性もあります。
具体的には、自社商品をメタバース上に配置しVR上でオンラインショッピングをするなどが考えられますね。
メタバースがビジネスで注目される理由
インターネット上の仮想現実「メタバース」をビジネスに活用しようと力を入れる企業が増えてきています。
メタバースはこれまで、個人がプレイヤー同士でゲームやチャットをする場所として親しまれてきました。
状況が変わったのは2020年、新型コロナウイルス感染拡大以降です。
コロナ禍で移動や対面が難しくなっていた状況を解決する策として、ビジネスシーンで活用しようと注目され始めました。
2022年3月にPwCコンサルティング社が1,085社を対象に調査した結果、メタバースのビジネス活用を推進または検討している企業は約4割もありました。
そのうち半数が1年以内のメタバースでのビジネス実現を目標にしており、ビジネスにとっては2022年が「メタバース元年」といえる状況にあります。
メタバースのビジネス上のメリット
ここでは、メタバースが持つ3つのメリットを紹介していきます。
・遠隔のコミュニケーションを最適化できる
・低コストで大規模なイベントを開催できる
・広告の出稿ができる
バーチャルで遠隔のコミュニケーションを最適化できる
メリットの1つ目は、遠隔のコミュニケーションの最適化ができる点です。
新型コロナウイルスの流行以降、世界中でリモートワークが盛んになりました。
現在は、Zoomや勤怠管理システムを使うことである程度便利になってはいます。
しかし、メタバースを活用することで現実の会社で出来ていたことがそのままメタバースでもでき、より便利になる可能性もあります。
Meta社(旧Facebook社)が開発したメタバース会議「Horizon Workrooms」では、アバターを通して相手の顔や身振り手振りを見て会話ができるサービスが構築されていますよ。
メタバースを活用したリモートワークが主流になれば、従来の出勤スタイルで払う通勤時間や交通費などのコストを削減できる可能性もありますね。
低コストで大規模なイベントを開催できる
次に、低コストで大規模なイベントを開催できる点が挙げられます。
従来のイベントは、会場費や人件費などのコストがかかり、規模が大きくなれば莫大な金額になることもありました。
しかし、メタバースではゼロコストにはならないものの、会場費などを抑えられるため大規模なイベントでも比較的低コストで開けます。
実際に「VRチャット」では、VTuberやDJのライブなどがすでに多く開催されていますよ。
大規模なイベントを低コストで開けるようになれば、宣伝はもちろん実際に見て回れるオンラインショッピングなど新たなマーケティング方法の確立が期待できます。
広告の出稿ができる
メタバースのメリット3つ目は、広告の出稿ができる点です。
近い将来メタバースが一般に普及し、多くの人がメタバース空間で過ごす時間が多くなると予想されています。
多くの人がメタバースを利用するようになれば、そこに自社の広告を出稿することで大きな広告効果を見込めます。
実際に有名なメタバースであるThe Sandboxには、国内の有名企業エイベックスやスクエア・エニックス、SHIBUYA109などが続々と参入しています。
特にSHIBUYA109は、渋谷の町を再現した「SHIBUYA109 LAND」をThe Sandboxの土地上に作ると発表しています。
メタバースは新しい広告塔として大きな宣伝効果を持ち、今後主流になっていく可能性は大いに考えられますね。
メタバースの抱える課題
先ほどは、メタバースビジネスのメリットを紹介しました。
ここでは、現在メタバースがビジネス上で抱える課題について説明していきます。
・VR機器の価格面・性能面の課題
・5Gが未普及
・ハッキングのリスク
VR機器の価格面・性能面の課題
現状VRには、価格面・性能面共にまだ課題が残っています。
まずVR機器の相場は5~10万円程度と高額で、スマホ接続型のVRは比較的安くスペックの面でメタバースには適しません。
Meta社が開発・販売しているVRヘッドセット「Oculus Quest 2」は、5~6万円程度の値段をつけていています。
例えば、1000人の社員がいたとして「Oculus Quest 2」全員に配布すると、5,000万~6,000万円程度のコストがかかる計算になりますね。
加えて、現在のVRは重量が500g~800gと重い点やVR酔いを起こす危険性などまだ性能面の課題も残っています。
しかし、VR機器の軽量化など性能面が向上し、価格も手に取りやすい程度に下がれば一般に普及していく可能性も十分に考えられます。
5Gが未普及
メタバースが普及していくには、5Gの普及も必要不可欠になってくると言えます。
5Gには、例えば以下の機能があります。
・超高速大容量通信
・超低遅延
・多数同時接続
これらの機能は、多くの人が利用するようになると予想されるメタバースと非常に相性が良いため、必ず5Gは必要になってくると考えられます。
しかし、2022年現在日本では5G回線は普及し始めてはいるものの、まだ一般には浸透していません。
したがって、5Gが多くの人にとって当たり前になれば、メタバースも普及していく可能性があると言えます。
ハッキングのリスク
メタバースだけではなくWeb3.0全体に言えることですが、ハッキングといったセキュリティ面の問題が残っています。
最近では、NFTゲームのAxie Infinityが約6億2500万ドルがハッキングされたことが話題になりました。
現在はメタバースが普及していないため事例は報告されていませんが、ハッキングによる金銭の流出や情報漏洩などが起きる可能性もあります。
ビジネスにおいて、金銭の流出や情報漏洩などは決して起こしてはいけない事案ですから、現状まだリスクがあると言えます。
しかし、ハッキング対策は進んでおり徐々に事例も少なくなっているため、いずれ問題は最小化されていくと考えられますよ。
メタバースのビジネスの可能性

企業のメタバース参入で最も注目されているのが「メタバースオフィス」です。
メタバースオフィスではバーチャルな空間に席や会議室、商談スペースなどを配置することにより、同僚や取引先とリアルな職場と同じように会話ができます。
まずはメタバースオフィスのような身近なところからスタートし、そこからメタバースの活用が進んでいくことが最も現実的です。
矢野経済研究所によると、日本国内のメタバースオフィス市場は2019年は4千万円程度でしたが、2020年は2億5千万円と6倍以上に成長しました。
2025年になるとさらに伸びて、180億円にまで拡大すると予測されています。
2020年以降のメタバースオフィスの拡大は、コロナ禍で企業の働き方が大きく変わり、テレワークが促進されたことが要因です。
アメリカの調査会社「エマージェンリサーチ」社の分析によると、世界のメタバース市場規模は2028年に約111兆円まで拡大すると予想されています。
今後、メタバースが広がるカギとなるのが「現実世界と仮想現実の融合」です。
仕事や娯楽をすべてメタバースに移行するのは現実的には難しいといわれており、企業がメタバースを活用するなかで、現実と仮想をどうハイブリッドしていくかがポイントになるでしょう。
メタバースのビジネス利用例
ここからは、現在メタバースが具体的にどう利用されているのか、各企業の活用例を紹介します。
・HIS
・電通
・シーメンス
・ANA
HIS
旅行会社大手のHISは、REALITYと提携し、スマートフォン向けメタバース「REALITY World」内で「HISトラベルワールド」というバーチャル支店を期間限定で設立しました。
ハワイや沖縄、ハウステンボスといった人気の旅行先のフォトスポットなどをメタバース空間に展開し、REALITYのユーザーが楽しめるコンテンツを提供しています。
HISはメタバース広告を取り入れることで、Z世代やミレニアル世代だけでなく、海外ユーザーが8割を占めるといわれるREALITYを活用し、HISブランドの認知度向上を狙っています。
電通
電通グループはグループ内組織を通じて、「株式会社ambr(アンバー)」に追加出資しました。
ambr社はメタバースクリエイティブスタジオ事業を展開しつつ、メタバース構築技術基盤プロダクト「xambr(クロスアンバー)」を開発・提供しています。
電通が追加出資した背景には、アフターコロナの社会を見据えたデジタル活用の進展にあります。
世界トップクオリティのメタバース企画・開発を実現するambr社との関係を強化することで、メタバースとXR領域における事業をさらに進展させるのが狙いです。
シーメンス
ドイツのエンジニアリング・グループであるシーメンスは、アメリカの半導体大手「NVIDIA(エヌビディア)」と産業用メタバースの構築で提携する取り決めに調印しました。
シーメンスは新たなオープン方式の製造業向けデジタルプラットフォーム「Xcelerator」を立ち上げており、Xceleratorはエヌビディアの3D設計プラットフォーム「オムニバース」と接続させて、エヌビディアとの提携をXceleratorの土台とするのが狙いです。
ANA
ANAはメタバースを利用し、旅行事業に参入しようとしています。
まずは京都市内の人気観光地である八坂神社や二条城、京都国際ミュージアムを再現する予定です。
ユーザーはスマホの専用アプリで自分を撮影するとキャラクターが自動生成され、メタバース空間の京都を散策できて観光や買い物も楽しめます。
航空業界や旅行業界はコロナ禍で大ダメージを受けましたので、非接触でも楽しめるメタバースを活用し、顧客との接点増やすとともに、現実世界での旅行需要も引き込むのが狙いです。
まとめ
企業がメタバースを活用することで、メタバースの技術やサービスが発展していくと、現実世界の一部が仮想空間に置き換わっていくことが予想されます。
ただし、より多くの人が参加することになると、秩序のない世界にならないよう、ルールをしっかり決める必要があります。
企業がメタバースに続々と参入する状況を「バブルのような状態だ」と懐疑的にとらえている人もいます。
しかし、ニューテクノロジーへの反応が遅い日本において、実はメタバースに興味を持っているのはごく一部の企業であり、多くの企業の足並みは鈍いのかもしれません。
企業が今後、メタバースにどのようにアプローチし、進化・発展していくのか、注目してみていきましょう。
