世界中から注目されているメタバースですが、TikTokやHUAWEIなど、IT分野で常に時代の先をいく中国のメタバースへの取り組みはどうなっているのでしょうか。
中国は2021年から次々と、関連する技術やサービスを開発するプレイヤーが参入してきており、今後のメタバースの方向性にも影響してくる可能性があります。
今回は中国のメタバース最新事情について解説します。
上海市が2000億円ファンド設立
中国の上海市はメタバースなどの最新テクノロジーに対する支援を強化していく計画を発表しました。
この発表に関連し、100億元(約2000億円)という大規模なファンドを、メタバースの開発に特化して設立することも予定しています。
中国政府が上海に対して、景気回復を先導するよう要請しているため、メタバースのような新しいテクノロジーに力を入れようとしているのです。
上海市が考える重要なテクノロジーとしては「3Dモデリング」「コンピュータ支援設計」「グラフィック」「画像エンジン」などを挙げており、このような分野に関する企業・研究機関を支援していこうとしています。
メタバースの他にも、低炭素プロジェクトやスマートターミナル産業への開発を支援する取り組みも計画されており、これら3つの大規模なプロジェクトは2025年までに総額1兆5000億元(約30兆円)になるといわれています。
上海市のメタバースファンドが目指すのは、大手企業で10社、中小企業で100社を育成していくことです。
2025年までにベンチマークになる製品・サービスを最低でも100個発売したいとしています。
メタバース上にオフィス街

中国の上海市に本社があるIT企業「花動伝媒(Huadong Media)」は、2022年2月公開の中国初のVRオフィスプラットフォーム「ARK1.0」を「ARK2.0」にバージョンアップして、人材採用から会議まで、リアルな現場の日常業務のほぼおこなえる「Metaverse as a Service(MaaS)」として提供しています。
ARK2.0では効率的な仕事とコミュニケーション、創造、生活スタイルの未来が表現されており、リモートワークの課題のひとつでもあった「現実社会と離れている感覚」を減らすのが狙いです。
ARK上にオフィスがある企業はすでに700社を超えており、約1万人以上がバーチャルオフィスで働いています。
ARKでは韓国の政府系ファンドや投資会社、グローバル企業などがさまざまなイベントを開催しており、中国の農村部の学校ではARKを授業に活用している例もあります。
花動伝媒は今後もARK開発計画も公表しており、将来的にはVRやAR関連のデバイスやコンテンツ、ソフトウェアなどを組み合わせることで、より現実に近いバーチャルライフにしていく予定です。
その他はどうなっている?
メタバースについては中国の大手IT企業も早々に目をつけ、力を入れています。
「テンセント」は世界中で大人気のオンラインゲーム「フォートナイト」の運営元である「Epic Games」に40%を出資しており、さらに世界的に有名なオンラインゲーミングプラットフォームである「Roblox」とも提携しています。
このような動きを見ていると、テンセントはゲームへの投資を中心として、メタバース業界に影響力を持とうとしていると言えるでしょう。
また「百度(バイドゥ)」は2021年12月、メタバースプラットフォームの「希壤(シーラン」をローンチしました。
TikTokで大きく名を上げた「バイトダンス」は2022年1月、メタバース型SNSアプリ「派対島」のテスト運用をスタートしていますが、このアプリはオンライン上につくられたバーチャル空間のなかでリアルタイムで活動できるコミュニティです。
ユーザーは自分のアバターを操作して出かけたり、コミュニケーションをとったり、イベントへの参加も可能です。
その他、大手だけでなくスタートアップ企業も次々と新しいものをつくり出しています。
中国でメタバースは発展する?

中国でメタバースが発展していくポイントとなるのが中国当局の動きです。
当局はメタバースの開発に対して、厳しく監督していく意向を示しており、メタバース業界が中国当局のせいで成長を阻まれるのでは、と懸念する意見もあります。
これまで中国のIT企業は世界でもトップクラスの成長を見せてきましたが、メタバース産業に対しては大手IT企業による投資が少なく、アメリカや韓国からは遅れています。
メタバースには欠かせない機器である「VRヘッドセット」についても中国では禁止されているという事情から、VRプラットフォームやメタバースは中国国内で人気が上がっているとはいえません。
VRヘッドセットによって得られる、メタバースならではの高い没入感がなければ、中国でメタバース人気が爆発するのはまだまだ先となることでしょう。
ただし、大手企業、スタートアップ企業ともにVR関連の投資額を増やしており、中国国内で今後どのような動きを見せるか、非常に楽しみです。
まとめ
中国現地の報道によると、中国国内にはバーチャルヒューマンに関連する企業が約28万8千社あり、そのうち64%はこの1年以内に設立されています。
中国ではもうすでに3万人以上のバーチャルヒューマンが存在するといわれていますので、一般のユーザーが精巧なアバターを簡単に作れるようになる日は近いでしょう。
テンセントやバイドゥ、バイトダンスに代表される大手IT企業は、GAFAMによる巨大なプラットフォームへのアクセスを中国当局が遮断したことにより、独自の発展をしてきました。
これまでと同様に、メタバースも制限された状況で、中国の企業ならではのサービスが登場し、成長していこうとしています。
中国のメタバース事情は世界から少し遅れをとっているものの、世界第2位の経済力を武器に、ちょっとしたきっかけで大きな爆発力を見せることでしょう。
メタバース先進国であるアメリカの各企業も中国の爆発力をよく理解していますから、モタモタしてはいられません。
中国におけるメタバース関連の今後の動向は要注目です。