メタバースにおける仮想治療室の開発・運営を行うXRHealth社のソフトウェアを用いた臨床試験の結果がPLOS ONEに掲載されました。
その結果で、VR療法が外科手術の麻酔の有効な補助手段となり得ることが実証されました。
試験はXRHealth社の没入型バーチャルリアリティソフトウェアを用いて実施され、手と手首の手術を受ける34人の患者の協力で行われました。
すべての患者に手術前に末梢神経ブロック(伝達麻酔)が施され、必要に応じて静脈麻酔のみを行う術中没入型VRチームと麻酔科医の指示による通常ケアチームに無作為に分けられました。
VR治療ソフトは没入感のある環境を提供し、手術を受けながら患者をリラックスさせ、痛みを軽減させるテクニックを解説しました。

試験の結果、XRHealth VR技術を使用した患者の大部分(13/17)は、手術中に静脈内鎮静剤を必要としなかったことが示されました。
術後アンケートでは両コントロールグループの患者の痛みと不安のレベルが同様に低いことが示されました。
その他の副次的な知見として、VR技術を使用した患者は通常のケア群の患者よりも麻酔から早く回復し、回復室から早く退出したことも実証されました。
「麻酔施術者は常に患者の快適さと患者の安全性という主要な利益のバランスを取ろうとしています。今回の結果は、VRが局所麻酔による上肢手術などの処置において、痛みや不安を満足にコントロールするのに役立つ可能性があることを示しています」と、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの主任研究員であるBrian O’Gara氏は述べています。
「これはVRによって、患者の体験を損なうことなく、危険な鎮静剤を避けることができるという点で非常に価値があります。もし、この技術の使用が、周術期の効率も助けることができれば、患者と医療者双方にとって、本当に革命的なものとなる可能性を秘めています」

これらの発見は手術中の患者体験を高めると同時に、「術後の回復をより良くするために手術中に非薬物的介入を行うこと」についての医療業界での議論につながる可能性があります。
XRHealth社のCEOであるEran Orr氏は、「現実世界で手術を受けながら患者をメタバース内の異なる治療室に移動させることは医療業界に大きな医療上のブレークスルーをもたらすことができます。仮想環境で痛みや不安を管理することは外科的処置に対処するためのゲームチェンジャーとなり、麻酔からの回復の労力を排除して、患者の体の回復を早くすることができます」と述べています。
BIRD財団はXRHealthとBeth Israel Deaconess Medical Centerに対して、没入型VRが膝関節置換術の際に鎮静剤の必要量を減らし患者の満足度を向上させられるか、また肥満手術の回復の質を向上させられるかを調査する臨床試験を実施するために90万ドルを交付しました。
医療×VRの実用的なニュースです。
VRが没入的であればあるほど、それを利用する人々は現実世界での苦悩から解放されることになります。
それは医療の現場で特に重宝されることになるでしょう。
本記事のように麻酔の部分的な代用として利用することもできますし、慢性的な疼痛に悩まされている患者の苦痛を取り除くことも可能でしょう。
しかし、VRが現実から切り離されることによって、映画「マトリックス」のような問題が起きないとも限りません。
その為、VR技術の活用には十分に注意する必要が有ることもまた事実です。
VRはその没入の度合いによって、大きな可能性と危険性の両方を持つ技術と言えるでしょう。